真正面から好きなんて言うのは、照れ臭いから。見つめあっても、つい冗談を言って笑っちゃう。
 ふざけて笑いごとにしないと、なんだか焦るんだもの。しっとりした空気が漂うと、どうにも落ち着かなくて、居心地が悪くて。
 そんなことしながら、私たち、言葉にしないでお互いに甘えてる。
 もうわかってるでしょ? 知ってるでしょ? 私のことなんだから、全部お見通しでしょ?
 口にした冗談に声を立てて笑うその一瞬、流す視線だけで合図を送る。誰が見てるわけでもないのに、まるで隠すみたいに、ひそやかに。

 そんなときに、わざと素知らぬふりをするのもお互い様。ちゃんとわかってても、絶対に知らん顔をする。受け取った暗号、解読できないふり。ううん、受け取ってすらいないふり。
 そうして狙ってる。相手を誘い出そうとしてる。焦れさせて、もどかしがらせて、もっともっと言葉を引き出そうとしてる。
 言葉じゃなくて、行動だって構わない。自分から動くんじゃなくて、相手を動かしたい。そんな欲望、心の中に隠し持ってる。なに食わぬ顔で笑いあいながら、ふたりして強かに作戦を練ってる。

 ぶつかり合う思惑、始まる駆け引き。
 でも、どっちが乗せられるのか、そんなこともふたりの間でなら了解済み。
 わかってるでしょって、視線を送っちゃったほうが負け。相手の作戦に乗って、痺れを切らす。そんなふうに、勝負は最初から決まってる。
 もう、仕方ないなあ、なんて顔で、ほんの少しだけ不機嫌を装って。でも、出し惜しみなんかしないで、望むものをあげる。
 あげるものは、言葉だっていいはず。だけど、なんでだろう、言葉にするより行動に移すほうが、ずっと気楽。
 面と向かって好きとか愛してるとか、口にすることを想像しただけでいたたまれない。真剣な雰囲気を、持ち込めない。
 幼馴染みって、そういうところ、本当に困りものだなって思う。

 でも、素知らぬ顔で近づけるのは、幼馴染みのいいところかな。不意打ちするには、相手の間合いにするりと入り込むことが必要だから。
 開けっぴろげに見えるけど、将臣くんだって警戒心ゼロなんかじゃない。
 本当はその逆。長い付き合いの間柄じゃなかったら、ふと身体を近づけてもノーマークだなんてこと、絶対にないんだから。
 他の人だったらこんなこと、ちょっとできないだろうな。少しだけ得意になって、私はひと思いに間合いを詰める。ためらったら負けだから、できるだけ素早く。
 躱わす隙なんて、与えてあげない。身構える余地なんて、残してあげない。そして私自身にも、考え直す時間なんて許してあげない。
 ここで照れ臭いだとかなんだとか言ってたら、本当にただふざけあってるだけになっちゃう。それじゃあ、ここから一歩も進めない。
 だから、実力行使。将臣くんにも、私自身にも。
 そうやって、勢いを味方につけて、身体と心の距離を縮める。本当は駆け引きだらけなんだけど、まるで偶然のアクシデントみたいな顔で、くちづける。予定外のことなんだって、わざとらしい言い訳、表情に貼り付けて。将臣くんも、不意打ちされちゃ仕方ない、なんて顔で受け止めてる。
 それは、逆のときも同じこと。
 私にくちづけた将臣くんは、衝動なんだからどうしようもないだろうって顔。そして私は、それを少しだけ驚いた顔で許す。

 本当はお互い、全部わかってるんだろう、なんてことは、言わないのが約束。取り繕ったって、本当は全部、予定調和。話し合いなんてもちろんしてないのに、ふたりだけのルールがいつの間にか出来上がっちゃってる。
 照れたふり、気づかないふり、拗ねたふり。不意をつくふり、つかれたふり。シナリオはしっかりと決まってて、それを書き換えるのはルール違反だって、ふたりとも知ってる。だから、用意されてる「つい」を、ルールどおりに重ねていく。
 まるで知らない顔してそれをやってのける私たち、まるで共犯者。

 だけど、どうしてなんだろう。
 最初から全部決まってるのに、わかってるのに。用意されてる役柄を演じてるだけのはずなのに、心が動く。
 自分たちで描いたはずのシナリオ。だけど、もしかして私、引きずられてる?
 決まった台本をなぞってるはずなのに、いつの間にか台詞がひとり歩き。どこへ行くのか、わからなくなりかけてる。
 結末はいったい、どうなってるんだろう?
 ふと思うとき、心はもう、決められた役柄を演じてなんていない。

 なんでもわかってる、そんな共犯者のはずの私たち。だけど、ふたりで用意した台本は、本当はもうすぐ終わり。そこからあとは空白のページ。
 だけど、お互いにそれを隠して、まだ決められた台詞を読んでるふりをしてる。ずっと演技のふりをしながら、こっそりお互いに問い掛けてる。投げた視線の端だけで、様子を窺ってる。
 気づけるものなら気づいてみれば?
 そんな顔で相手を挑発する私たち、共犯者だけど、もう、それだけじゃない。

 ―― ねえ、どこからが本気か、わかってる?

Fin.

「青色20題」は、物書きさんに20のお題よりいただきました。